ユウ、ヒロ、ナツの戯言

男3人による戯言、雑記、日誌を散文的に

青春を舐めるな!(中学暗黒時代編)

あんたは連れていけない

 

真剣な眼差しで母がそう言った。次の日に母は姉と兄を連れてうちを出て行った。念のためにと渡された住所の書かれたメモと当面の生活費として5万円。父は海外出張中という話だったが、浮気相手の家にでもいたのかもしれない。俺はこの時の母を恨んでいない。見捨てられて当然のクソガキだったからだ。そういうことで実質的な意味での一人暮らしが始まった中学2年の秋。

 

手作りの弁当がないやつらのことを不良と呼ぶ

 

うちの中学には給食がない。みんな手作り弁当を持参している。俺はお昼の時間になると教室を出ていく。ほかの教室からも5~6人。別に約束しているわけではないのだけれど、連れ立ってコンビニへと行くのが日課となった。所謂不良グループというやつだ。コンビニの前で飯を食い、そのまま学校に戻らないことも多々ある。俺たちだけが知っている廃墟へと向かい、眠くなるまではそこで過ごす。廃墟には多い時で15名くらいが集まっている。廃墟と言っても、元はオフィス兼社員寮だったのだろう。それなりに広いし、そこそこ奇麗だった。家出してほぼここで暮らしているようなやつもいた。壁は落書きだらけだ。

 

俺は不良ではない。でも同じ匂いを発する嫌われ者

 

ただ自分の周りが不良になっただけだ。90%が不良というサッカー部の中で俺が残りの10%に属しているというわけでもない。不良でもなければ善良な生徒でもないそんな中途半端なやつだった。不良たちは学校では嫌われ者、弱い者を迫害し、またその弱いものがさらに弱い者を迫害する。俺は誰にも加担しない。その代わり誰も助けない。俺は誰も殴らない。誰にも殴られない。罪深き傍観者だった。そして、本当に一番弱いのは不良たちだった。底辺で凄む弱い者たちが廃墟には集まってくる。ここは彼らの楽園だった。

 

放課後は喧嘩の毎日。公園にいれば他校の不良に絡まれる。たまり場に行けば他校に絡まれる。喧嘩にさしたる理由もないのだ。田舎町でみんな不良漫画に影響され過ぎている。おれはいつも強く宣言する。「おれは喧嘩はしない」。不思議なものでこれは効果がある。一度も手を出されたことがない。それでも喧嘩が起きた次の日には大抵教師に呼び出される。相手が怪我したとかなんとか。廃墟ことを誰かが通報したのだろう、警察官から追いかけられることも珍しくない。万引きや放火未遂、エスカレートしていく俺たちの日常。見かねた学校が不良の巣窟であるサッカー部を廃部にしようという話を出したらしい。不良ではない10%のやつらが俺たちに言ってきたよ。「お前らが退部すべきだ」と。確かにな。

 

不良品ならば作ったやつを責めてくれ

 

不良と呼ばれるか彼ら、彼女らと過ごしていると見えてくる。大抵は劣悪な家庭環境、貧困、ネグレクト…。親に槍で刺されたやつもいる。中卒で働いて家に金入れろって言われている。うちの当時の担任は暴力指導上等のイカれた教師で、ぼこぼこにされたやつもいる。勉強する理由がない。夢なんて持てない。中卒での就職先?パチンコかガソリンスタンド、それか肉体労働。就職できたとしても続くわけがない。みんなから疎まれるのは仕方ない。でも舐められたくない。可哀そうだと思われたくない。精神的な不安定な状況の中で、歪んだプライドを必死に守ろうとしている。同じ匂いがするやつらが集まり、心の拠り所にしている。匂いに引き付けられたやつらと毎日喧嘩している。喧嘩している間、彼らは現実から目を背けることができたのかな。廃墟に誰かが持ち込んだ電池式のカセットデッキブルーハーツとジュディアンドマリーが流れている。「おれさ、高校行ったらバンドやりだいんだよね。」って言ったら、谷間が見えるまでYシャツを開けている子が「ユウはいいよね。高校いけるんだもんね」って言った悲しい顔と谷間を俺は忘れない。ジュディマリが好きだというその子とはこの廃墟に集うメンバーで唯一、卒業後も縁が続いていく。

 

自我の目覚めと楽園の崩壊

 

中学3年生の進路希望調査。俺の周りの彼ら、彼女らは高校に行かないという選択肢がリアル。あとは定時制とか。そんな話をしているときに、ついに俺の自我は爆発したのだ。俺は喧嘩なんかしたくない、だいたい俺は喧嘩する気がないのに弱そうだから真っ先に絡まれる。警察から追いかけられたくない、そもそも不良になったつもりもない、だいたい不良なんてださい、高校にはいきたい、青春したい、私の周りにはヤニ臭い茶髪女子しかいないが本当は黒髪の清楚系が好みだ!そんわけで俺はこのグループを抜ける宣言をする。怒り出すやつもいるかなって覚悟していたけど。なぜかな。みんな悲しそうで寂しそうな顔を向けてくるだけだった。このすぐあと、うちの絶対的番長Kが他校に喧嘩で負けた。またNO.2のYが窃盗罪で逮捕されて鑑別行き。廃墟は警察が介入し立ち入り禁止に。そんなわけで私がわざわざ抜ける宣言しなくても解散状態になるわけだけど。でも、Kが喧嘩に負けた話を聞いた時、Yが逮捕されたと聞いた時、悲しくなったを覚えている。KともYともあれから一度も会っていない。

 

それでも戻ろうとは思わなかった。

 

そんなわけで俺は高校に行くために勉強を始める。噂では2学期の成績が重要らしい。2学期の試験だが、俺は主要5教科すべてで学年5番以内に入った。当時のうちの学校では点数順にテストが返されるので、俺の名が一番最初に呼ばれると教室は静まり返った。でも相変わらず、遅刻はするし早退はするし、授業中は寝ているし、宿題は一度も出したことがない。

 

これはどうでもいい話なのだが、話を初夏に戻す。プールの授業をさぼって見学していた時。巨乳という噂の女子を俺は悪びれもなくずっと眺めていた。確かに他の女子とはボリュームが違う!その女子は俺の目線に気が付くと、わざわざ遠回して俺に正面を向けないようにプールから上がっていった。そのあと、女子は体育教師にちくったんだろう。教師は女性だったがさすが体育教師。憤怒の表情で俺のところまで走ってきてプールサイドでぶん投げられた。ただでさえ嫌われているのに、変態の称号まで手に入れちまった。女子の水着を眺めていて、本人に気が付かれ、教師に投げ飛ばされるというこの生き恥。この記憶も中学を暗黒時代とする理由のひとつである。

 

俺はときどき爆発する

 

話は秋口に戻る。お昼の時間に外を抜け出すのは辞めた。コンビニにいくやつらとは極力顔を合わせないようにしたかった。お昼時間、ずっとブルーハーツを聞いていたよ。クラスの大人しい女子がこっそりおにぎりをくれるようになった。何聴いてんの?って話しかけてくる奴がいた。俺はようやく平穏な生活を取り戻しつつあった。ある日、いつものようにその女子が俺にこっそりおにぎりをくれた。その日の放課後。教室には10名くらいがいただろうか。何がきっかけだったか?騒ぎ出すやつがいた。例の女子が俺におにぎりを渡していることに気が付いたらしい。そいつが煽り、クラスのやつらが冷やかす。お調子者がコールを掛ける。「ふうふ!夫婦!夫婦!」複数名が声を合わせる。女子は何も言い返せず俯いて顔を真赤にしている。俺は自分の椅子を掴んでそいつらに全力で放り投げた。机のうえで椅子が跳ね、コールしていたやつに当たる。興奮したのかなぜか俺は鼻血を出していた。鼻から落ちる血がYシャツを染める。静まりかえる教室。みんなの心底ひきつった顔は今でも忘れられない。ふと教室の前に目線を動かすと、教師の顔が怒りに歪んでいる。おれは「だれか、テッシュ!」と声に出していた。誰もかしてくれるわけがない。俺は教室を出て行った。

 

後日、担任に職員室まで引きずれるように連れていかれた。隅にある応接セットのようなところ。学年主任(男性)、担任(男性)、なぜか英語の女性教師(ばばぁ)も同席する。教師たちが語る話の筋はこうだ。意外にも教室での件が主題ではなかった。今更点数をとってもお前に良い成績は上げる気はない。今更テストだけ頑張ったって俺は認めない。素行も成績の一部だ。お前が5(成績は5が最高点)なんてありえない。で、女性教師がヒステリックに口を挟む。あんたのような人間が一番卑怯。点数だけ良ければよいと思っている…。あなたがクラスの雰囲気を壊しているのが分からないの?俺は途中から早く終われと思い、話も聞いてなかった。するとその態度が気に入れなかったのか、学年主任が声を上げる。「おい、顔を上げろ!目を見ればわかるんだよ。お前の目はY(鑑別にいった)とそっくりだな!」

 

おれはいつも思っていた。喧嘩はしない。どうせ負ける。もしやるなら喧嘩ではない。一方的に殴るか蹴るかだ。卑怯な手も躊躇わずに使う。俺はそのそぶりを見せないようにして、それでいていきなり、主任教師に殴りかかった。不意を突いた一撃。さすがは大人だと思ったよ。担任が寸前で止めた。すぐに羽交い絞めにされる。ばばぁが悲鳴を上げている。「おいばばぁ、俺は成績が欲しくて勉強したんじゃねーよ。お前らに気に入られるために勉強したんじゃねーよ!」俺は何に怒ったのかな。Yが鑑別に行ったのを、教室で教師が病気と説明したことかな。彼らを不良の一言で片づける大人にかな。何もかも上手くいかない自分にかな。青ざめた顔のばばぁが呟いた。

 

あなたは狂っている

 

俺はここから学校に行ってない。秋から受験が終わる2月末まで。俺はメモを頼りに母親のところに行った。案外すぐ近くだった。「高校に行きたい。でも内申点は絶望だから都立は無理。塾に行かせてください。」母親が出した条件は2つ。1、兄貴が通っていた高校を受けること。2、家庭教師を付けること。最後に学校はそのまま休んで勉強しなさいと言われた。案外話の分かる親なんだって妙に感心したのを覚えている。

 

学校を休んでから、中学では疎遠になっていた小学校時代の友人数名が放課後うちに来るようになった。秋から2月までほぼ毎日だ。彼らはクラスが別だったので、俺の状況を詳しくは知らなかったのかもしれない。でもそのお蔭で友達のいないまま中学校生活を終えることは避けられた。3月からは学校にも行った。相変わらずクラスでは浮いていて、卒業式の日のクラス会にも誘われなかった。行く気もさらさらなかったけどな!卒業式を終えるとそのままひとりで暮らすうちに帰った。そんなわけで卒業後、一度も同窓会には参加していない。俺にとって卒業は何か不自由で歪な世界から抜け出すことの象徴のようだった。だからもうここには用がないのさ。

 

このくそったれな学校と地元と自分にさよならだ

 

束の間の春休み。おれは一人で妄想する。さて、このくそったれな生活をどう変えるべきなのか?思い描く青春とやらはどこに行けば手に入るのか?

 

バンドは絶対にやる。まずはブルーハーツコピーバンド。あ、ジュディマリコピーバンドをやって、あの子に歌ってもらうのもありだな。オリジナルの曲を作ってライブもしたい。バイトをしてギターを買おう。友達と夏は海へ行きたい。冬はスノボに行きたい。彼女も欲しいし、デートもしたい。友達と馬鹿話をしながら夜を越したい。大いなる期待があるからこそ不安もあった。上手くやれるだろうか?高校入学編へと話は繋がっていくわけだが、とりあえず俺は全部叶えたよ。

 

「なぁ、ヒロフミ。バンドやらないか?」