ユウ、ヒロ、ナツの戯言

男3人による戯言、雑記、日誌を散文的に

想い出逃避行~童貞挽歌➂~

童貞とは童貞という名の生物である。

 

俺は高校時代、

地元でもバンドを組んでいた。

 

男だけの3ピースバンド。

当然3人とも童貞である。

 

吉祥寺のライブハウスを拠点に活動していた。

 

 

とあるライブの打ち上げ。

その日は、雑居ビルにあるダイニングバーを

貸切って盛大な飲み会が開かれた。

ライブを主催しているのが大学生だったので、

ファンやサークルメンバーが大勢集っていた。

 

たかが2~3上の女性が、

やけにみんな色っぽく見える。

 

ドキドキしながらテキーラサンライズ

 

飲み会はヒートアップし、

野球拳やらポッキーゲームなど

徐々にエスカレートし、

男女入り乱れての狂宴と化した。

 

 

 

宴会の場の隣には、8畳ほどの和室スペースがある。

時折そちらに数名が移動していく。

 

女が俺たちに話しかけてくる。

「ねぇ、あっちの部屋のこと知ってる?」

「知りません」

「向こうではね、乱交状態よ。最低でしょ?」

といって女はゲラゲラ笑っている。

 

笑顔をひきつらせてジントニック

 

そこにバンドのボーカルの大学生が加わる。

「君たち、まさか童貞じゃないよな?」

「童貞です。」

「同じくです。」

「違います」→俺は嘘をついた。

 

するとその男が叫んだ。

「みんな聞いてくれ、ここに童貞がいる!」

男は、ふたりを立たせた。

「みんな、こいつらまだ高校生だぜ!?」

おーという歓声が起きる。

「けっこう良いバンドだよな?」

おーという歓声と拍手。

「でも、童貞なんだと!」

笑い声と悲鳴が交わる。

「誰か彼らの童貞を奪ってみたいと思わないか?」

更なる歓声と悲鳴の声。

 

仲間のひとりが大学生たちに別室に連れていかれる。

その男と一瞬目があった。

覚悟を決めた男の顔をしていた。

 

少年から大人に変わるギムレットハイボール

 

少ししてもう一人の男も

「おれ行ってくる」

やはり覚悟を決めた男の顔をしていた。

 

なんてロックな夜なんだ。

 

俺は平静を装って、男を送り出した。

 

本当は、びびってたんだ。

足が震えるほど、びびってたんだ。

この狂宴の雰囲気に、

もしかしたら童貞を奪われてしまうことに。

それは望んでいるようで望んでなく。

望んでいないようで望んでいることだった。

 

戸惑いながらのモスコミュール

 

女がまた話しかけてくる。

「君は行かないの?」

震える手をごまかしながら煙草に火を付ける。

「あ、君は彼女がいるんだ?」

煙を吐き出し、心を整える。

「君が一番かわいい顔してるもんね」

そういうと女は口づけをしてきた。

はじめてのキスは、煙草の味がした。

 

忘れられないソルティドッグ

 

 

店を出て、俺たち3人は無言で歩いた。

朝日が目に染みる。

バンドリーダーの男が呟いた。

「俺、できなかったわ。」

「俺も」

「え?」

「セックス、できなかったわ」

そう言うと、3人で大笑いした。

 

「俺らもオリジナル曲やんない?」

「だな!コピーだけじゃだめだな」

「あとさ、メンバーに女子入れない?」

「それ、最高!」

 

純度100%の邪な気持ちを抱えながら、

少年たちは、大人になっていく。

 

【ユウ】