ユウ、ヒロ、ナツの戯言

男3人による戯言、雑記、日誌を散文的に

俺の目は死んでいるか?

ヒロは覚えているかな?

 

いや、くだらないことなんだけど。

 

昔、お互いの目を見て、

「こいつの目はまだ死んでない」

と言わなきゃいけないゲームが

俄かに俺とヒロの間で流行った。

 

おもむろに机に顔を倒すヒロ。

その目を見ると、妙にぎらついてる。

「こいつの目はまだ死んでない」

 

急に床に倒れ込む俺。

すかさず、ヒロが俺の目をチェックする。

「こいつの目はまだ死んでない」

 

全ての欲しいものを手に入れられると思ったあの頃。

何かを手に入れるたびに何かを失っていくんだね。

 

結婚をぼんやりとしないと決めた時、

いやもうできないと気が付いた時、

私は地図を失ったことに気が付いた。

 

父と母を含む先人たちが書き足していった地図。

その地図には結婚の場所が記されている。

「この列車に乗れば幸せになれるよ。」

私の幸せを願う人々が、その切符を渡してくれた。

その切符を握りしめて、列車に乗り込んだんだ。

 

奥さんと子どもがいてさ。

仕事に励んで、土日は家族と過ごしてさ。

仕事も家事も夫婦両輪で回す時代。

父となるのも母となるもの大変だよね。

徐々に大きくなっていく背中の荷物。

でもその重さこそが幸せってやつだろう?

そんな風に今でも思うんだ。

 

気が付けば途中下車。

全てを投げ出してしまいたいと願ったあの日。

私が何かを捨てたのか?何かが私を捨てたのか?

 

地図は白紙になり、

彷徨い歩く旅路に同伴者はいないのさ。

自由を得るために失ったもの。

微かな月明かりだけを頼りに歩くのさ。

どこへいくのか?どこへいけるのか?

 

何もかもを失ったと拳を握りしめたあの日。

そっと手を開いてみるとそこに私の人生があったよ。

 

何もかもを捨てたと思ったゴミ捨て場に、

ちゃんと積み重なっていたものがある。

無意識に、でも必死に積み重ねてきた私の物語。

暗闇の中で、微かに聞こえてくるエール。

あぁ、その声の主は自分だった。

まだいけるよ!前に前に前に!

 

まっさらな白紙の地図を握りしめて、歩いていく。

どこへいくのか?どこへいけるのか?

砂漠の真ん中で声が聞こえてくる。

「こいつの目はまだ死んでない」

 

小さな荷物を背負って歩いていく。

どこへいくのか?どこへいけるのか?

暗闇の中で叫んでいる。

「俺の目はまだ死んでない」